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”
――クソッ。馬鹿でかい家だな……。
無駄に広い白柳家内を、陽介に気づかれないよう後を尾 ける。やがて陽介は、とある部屋に入っていった。蘭は、そっと忍び寄ると、ドアに耳をあてた。
「やれやれ、突然テレビで結婚宣言なんぞ、肝を冷やしたぞ」
勲の声だった。
「最初は、どこの馬の骨ともしれないオメガなんぞと思ったが……。それもブンヤ(新聞記者の俗称)ごときと」
やはりこれが本音か。ぎり、と蘭は歯ぎしりした。
「だが、まあいい。認めてやる」
「別に、あなたに認めていただこうとは思っていません。結婚は、俺の自由です」
陽介が、冷ややかに返す。まあまあ、と懐柔するような勲の笑いが聞こえた。
「最初は焦ったが、これも悪くないかもしれん。オメガと結婚するのは、いいアピールになるぞ。年内には、解散総選挙があると踏んでいる。その際は、オメガ保護を政策として打ち出すつもりだ。陽介、お前有利になるぞ?」
「踏んでいる、だなんて白々しい。そうさせるくせに」
吐き捨てるように、陽介が言う。現首相、今野 は勲が会長を務める派閥の出身だ。今ひとつ頼りなく、決断力に欠ける。稲本いわく、勲の操り人形的な存在らしい。
「強がるな。選挙で落ちれば、我々はただの人だぞ?」
「あいにく俺は弁護士の資格も持っていますから」
「減らず口を叩くな。……国民は単純だ。オメガを大切にしているイメージを作れば、強みになるぞ? しかも美人だ。もっと表に出さんのか?」
「蘭が嫌がっていますから」
「今から尻に敷かれてどうする」
勲がため息をつく気配がした。
「とにかく、これは政界の先輩としての忠告だ。来るべき選挙に向けて、美人のオメガ妻がいると吹聴しろ。どうせオメガなんて、見た目と子を産むしか能がない存在だからな……。ブンヤ出身というが、お飾りで在籍していたくらいだろう。会社がオメガに、大きな仕事を任せるはずがない」
あまりの言い様に、こめかみがひきつる。頭に血が上りそうになるのを必死でこらえて、蘭は自分に言い聞かせた。
――そう思わせた方がいいじゃないか。当時の仕事内容について、興味を持って調べられたら困るんだし……。
その時、陽介の静かな声が響いた。
「承知しました」
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