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 いつものカフェで向かい合うと、稲本は真っ先に頭を下げた。 「市川。この前は、ひどいことを言ってすまなかった! 混乱して妙なことを言っちまったが、決してお前がオメガだから馬鹿にしてるわけじゃない」 「わかってるって。稲本は、そんな人間じゃない。それに俺だって、こういうやり方がよろしくないのはわかってる。反対されて当然だ」  そう言うと稲本は、ほっとしたような顔をした。 「……じゃあ、また共同戦線を張ってくれるか?」 「もちろん。それより、勲のネタというのは?」  蘭は、興味津々で身を乗り出した。 「オメガ女性の愛人がいる。クラブのホステスだ」 「何だ、それだけのことかよ」  蘭は脱力した。陽介も言っていたし、驚くほどの話ではない。 「まあ、最後まで聞けよ」  稲本は、妙に得意げだ。 「白柳勲は、とある団体から多額のヤミ献金を受けているらしい。そしてその団体とのパイプ役を担っているのが、その愛人らしいんだ。だから俺は、彼女に接触してみようと思う」 「団体というのは?」 「『オメガの会』だ」  ああ、と蘭は合点した。『オメガの会』というのは、オメガの社会的地位向上をうたうNPO法人だ。最近のしてきているが、どことなくうさんくさいと蘭はにらんでいた。あのまま社会部に在籍していたら、次はそこにメスを入れる予定だった。 「オメガを踏みつけにしてきた奴が、オメガ保護団体から金をもらってんのかよ? 笑えるな」  蘭はせせら笑った。 「何としても、公にしてやりたいな……。でも心配だな。俺の時みたいに、もみ消されるんじゃ……」  勲とつるんでいる人間でさえ、マイナスになる記事は葬られたのだ。勲本人なら、当然だろう。すると稲本は、蘭の目を見つめて告げた。 「大丈夫だ。いざとなったら、俺も辞める覚悟だ」

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