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”
「――離婚?」
「だってそうだろう」
稲本は、たたみかけるように言った。
「市川が白柳家に潜入したのは、勲の弱点をつかんで失脚させるためだろ? 自分でもそう言ってたよな? だったら、その必要がなくなれば、結婚生活も続ける意味がなくなるじゃないか」
「――でも! 俺は奴の番にされたし……」
蘭は、思わずそう言っていた。自分でも、なぜ言い返したのかわからなかった。
「全ての番が結婚しているわけじゃないだろう」
稲本はクールに言い放った。
「アルファは、何人でも番を作れるからな。陽介だって、すでに他に番がいるかもしれないぜ? 何せ、あの親父の息子だ……。とにかく、奴に義理立てする必要はない」
蘭は、黙り込んだ。目的を達成した後のことなど、考えてもみなかった。稲本の言うことは、全て正しいと思う。それでも、離婚となると現実味が湧かなかった。脳裏には、陽介の台詞が蘇っていた。
『俺から離れようとしたり、他の男と遊んだりすれば、俺は何をするかわからんぞ……』
あの時の陽介は、鬼気迫るものがあった。しかし、そんな風に執着を見せる一方で、蘭を選挙に利用せよという父親の命令に従おうとした姿も蘇る。
――本当の陽介は、どっちなんだ……。
「まあ、その時はその時だ。取りあえず、お互い頑張ろうぜ」
まだ何か言いたげな稲本を残して、蘭は席を立った。
「もう帰るのか?」
「明日引っ越しって言ったろ? 帰って、荷造りしないと」
「わかった。悪いな、手伝ってやれなくて。……ていうか、結婚祝いもやれてないな」
今さらだけど、と稲本は笑った。
「悠が来てくれるから平気。それよりお前は、ちゃんとスクープをつかんでこい。それが俺には、何よりのプレゼントだ」
ポン、と稲本の肩を叩いて、蘭はカフェを後にした。
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