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「――悠? どうかした?」  気になった蘭は、悠の顔をのぞきこんだ。悠は、はっとしたように、ううん、と言った。 「とにかく、これは肌身離さず持っておきなよ? 盗難にあったら大変だ」  念を押され、蘭は素直に、小箱をカバンにしまいこんだのだった。  その日の悠の活躍ぶりは、めざましかった。彼は蘭と一緒に新居まで来てくれ、荷ほどきもやってくれたのだ。そこまで手を煩わせるのは悪いと思ったが、悠は手伝うと言い張ったのである。 『どうせ今日は、どっちの仕事も休みだし。それとも蘭、一人で収納できるの? さっき詰め込んだ物たち』  そう言われると、自信はなかった。整理整頓もまた、苦手なのである。こうして蘭は、とことん悠に甘えることにしたのだった。 「寝室の方、終わったよ-」  蘭が本の整理をしていると、悠がひょいと顔をのぞかせた。 「もう!? 早いな」 「そっち、手伝おうか?」  いや、と蘭はかぶりを振った。 「あと少しだし、平気。それに本は、自分でやりたいし」 「ならもう終わりかな?」 「そうだな。悠、今日は本当にありがとう」  蘭は、しみじみと室内を見渡した。悠のおかげで、蘭の荷物はほぼ片付いたのだ。陽介はすでに私物を運び込んでいたので、悠は蘭の分を、空いたスペースに上手に収納してくれた。前回案内された時は殺風景だった新居は、見違えるような小洒落た部屋に仕上がった。 「疲れただろ? 何か食べに行くか?」  その時、玄関の方でカチャリと音がした。  ――陽介か? 帰ってきたかな。  出ていってみれば、果たして陽介だった。彼は蘭を見ると、嬉しげな顔をした。 「出迎えか? 新妻に迎えられるのは、悪くないな」 「そういうこと言うなって! ……ところで陽介、イベントで何か食べてきたか?」 「いや、飲み物だけだった。だから腹ぺこだ」  陽介は、かぶりを振った。 「じゃあ夕食……」 「でも、その前に」  陽介の腕が、素早く伸びる。 「お前を堪能させてくれ」  あっという間に抱き込まれて、蘭は焦った。 「陽介! ダメだって。実は、今……」 「蘭?」  陽介を引き剥がそうとしたが、遅かった。出てきた悠は、二人を見て、目をぱちくりさせた。 

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