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 ――まあ、わからなくはないけど。でも、悠は親友なのにな……。  納得しきれない気もしたが、喧嘩はしたくなかった。渋々うなずくと、陽介はやや表情を和らげた。 「理解してくれたなら、それでいい。今日は仕方ないから、飯を食わせていけ。でも今後は、家に上げるなよ?」 「……わかった」  二人そろってダイニングに行くと、悠はすでに食卓のセッティングを終えていた。 「悪いな。そこまでしてくれなくても、よかったのに」 「これくらい、大したことないから……。あ、そうだ!」  悠はパッと顔を輝かせると、ポケットから何やら紙を取り出した。 「これ、ささやかだけど、お二人への結婚祝いです!」  差し出された紙を広げてみると、家庭料理のレシピだった。几帳面な悠らしく、手書きでびっちりと説明が書かれている。 「ごめんね、こんなことしかできなくて。正直、金欠でさ……。でもほら、いざという時に役に立つかなって」 「ううん! 助かるよ。ありがとう」  料理が苦手な蘭を慮ってだろう、レシピの随所には、細やかなアドバイスがちりばめられていた。図解イラストまで付いている。蘭は、心温まるのを感じた。  ――陽介はああ言うけど。でもやっぱり、悠はいい友達だよ……。  ありがとう、と再度礼を述べて、蘭は悠を食卓へと促した。そうこうしているうちに、ピザが到着する。だが、食事が始まっても、陽介は無言だった。いたたまれなくなり、蘭は悠に話しかけた。 「最近、仕事はどう?」 「うーん」  悠は、渋い顔をした。 「工場の方が、先月から上司が替わったんだけど、オメガ差別のひどい人でさ。結構大変。体を触ってきたり、ヒートはいつなの~とか聞いてきたりするんだ」 「ひでえな! それ、セクハラじゃん!」  蘭は、我が事のようにカッとなった。 「誰かに相談した?」 「したけど、取り合ってもらえなくて……。それでさ、僕、『オメガの会』に相談してみようかなって考えてるんだ」  蘭は、ドキリとした。あの怪しい団体か。そして、勲にヤミ献金をしているという……。蘭は、悠を押しとどめようとした。だがそれより早く、陽介の鋭い声が響いた。 「やめておけ。関わらない方がいい」

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