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 蘭は、驚いて陽介の顔を見た。彼は、『オメガの会』と父親との関わりを知っているのだろうか。だが陽介は、こう続けた。 「NPO法人だからといって、安易に信用しない方がいいぞ? 怪しいところも多いからな。頼るなら、公的な窓口にしておけ」  それきり陽介は、口をつぐんだ。一般論だろうか、それとも何か勘づいているのか。蘭があれこれ考えていると、悠はほっとしたように笑った。 「ありがとうございます……。そうですね、公的機関の方が、いいですよね」  どうやら悠は、忠告してもらったことよりも、陽介との会話の糸口が見つかったことに安心したようだ。機を逃してなるものか、と蘭は食いついた。 「そうだ、こういうことなら陽介が詳しいじゃん? 何か、アドバイスしてあげてよ」  陽介は、一瞬面倒くさそうな顔をしたものの、説明し始めた。 「……まあ、取りあえずは証拠を取っておくことだな。第三者に証言してもらうのも、一つの手だ。会話の録音や、セクハラ現場の写真があればなお良い……」 「ちょっと待ってください……、メモりますね!」  悠は、慌てたように手帳を取り出すと、陽介の言葉を忠実に書き留め始めた。 「録音、写真、っと……。なるほど。さすが、弁護士の先生ですね。すごいなあ。全然思いつかなかったです。ありがとうございます!」  悠は、陽介の顔を見つめてにっこりした。続いて、蘭の方をチラと見る。 「蘭はいいなあ。こんな頼りになる旦那さんがいて。何でも解決してくれそうじゃん?」 「バーカ。陽介に頼らなくても、俺は一人で何でもやれるって」  いつもの調子で言い返したのだが、悠は顔を曇らせた。 「そんな言い方したら、陽介先生がかわいそうじゃん……」  思わず陽介を見ると、彼は目をそらした。  ――マジで? 傷つけた……?  何だか自分が悪者になった気がする。妙にばつが悪くなり、蘭はむしゃむしゃと残りのピザをほおばった。悠はと見れば、メモした陽介からのアドバイスを、真剣に読み返している。蘭は、ふと思った。  ――悠って、健気だよな。それに比べて、俺はつくづく可愛げがないっていうか……。陽介も本心では、悠みたいなタイプを好きだったりして……。   そこまで考えて、蘭ははっとした。  ――何考えてる。陽介がどんなタイプを好もうが、どうでもいいじゃないか。この結婚は、勲に近づいて、陥れるため。それだけなんだから……。

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