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7 すれ違う二人

 それから約二週間が経った。蘭はマンションの寝室で一人、ぼんやりしていた。  あの夜陽介は、別室で眠った。翌朝蘭が目を覚ました時は、すでに彼の姿はなく、『仕事の都合で、しばらく実家で過ごす』という書き置きが残されていた。そしてその言葉通り、彼はそれ以来、マンションに戻ってこない。謝罪のメッセ―ジを送っても、無視されている状況である。  ――それにしても、何であんなレシートが寝室に落ちてたんだ……。  蘭は、引っ越しの際のことを思い出していた。 『レシートとか……。取りあえず、どんどん捨てていこう』  そう言って悠は、ゴミの処理を請け負ってくれた。そして、寝室を片付けてくれたのも、悠だ。まさか、ゴミを捨てている時にレシートを見つけて、わざと寝室に放置したのだろうか。アフターピルの件は、悠には話していないが、陽介同様、場所と日時からピンときた可能性は大いにある。  蘭は、頭をかかえた。悠は、物心ついた頃からの親友だ。指輪を肌身離さず持っておけ、と注意してくれた。苦しい経済状態でも、心のこもった結婚祝いをくれた。そんな卑劣な真似をしたとは、思いたくない。一方で、悠は信用ならないと言った、陽介の台詞もよみがえる。  ――取りあえず、このマンションには入れないようにしよう。陽介からも、注意されたことだし。  ひとまず蘭は、そう決意した。残る問題は、陽介との関係だ。蘭は、切ない思いで周りを見回した。ベッドの上には、彼の服が山と積まれている。ほぼ無意識のうちに、集めてしまっていた。  ――『巣作り』か……。  番の匂いを求める、オメガの習性だ。番なんて作るつもりはなかったから、そんな行為はハナから馬鹿にしてきたというのに。これがオメガの本能か、と実感せざるを得ない。

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