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”
――止め止め。
蘭はベッドを飛び出すと、キッチンへと向かった。感傷的になるのは、柄じゃない。とにかく、どんな手を使ってでも陽介との関係を修復しなければ。そうでないと、勲に接近するどころではない。
蘭は、冷蔵庫から食材を取り出した。物は考えようだ。陽介が不在の間に、料理の腕を磨いておこう。彼の好物は、すでにリサーチ済である。ここに帰る日があったら、美味い料理と酒でもてなすのだ。そして機嫌が良くなりかけたところで、ベッドに誘う、という算段である。
――案外、うまく仲直りできるかも……。
とはいえ、料理経験ほぼゼロの蘭にとっては、野菜の皮むきすら一苦労だった。あちこちに切り傷を作りながらも、どうにか一品をこしらえる。すると、それを待っていたかのようにスマホが鳴った。
――陽介かな?
期待してスマホを見た蘭だったが、稲本からのメッセ―ジだった。
『『オメガの会』の件で進展があった。これから会えないか?』
「お、マジか!」
蘭は、笑みがこぼれるのを抑えきれなかった。ようやく、勲のスキャンダルを世間に公表できる日が来たのか。
「これで、恨みが晴らせる……」
そうつぶやいて、蘭はふと気づいた。勲を失脚させたとして、自分はその後、どうすればいいのだろう。稲本は、離婚するものと決めてかかっていたが……。
「そんなの、嫌だ」
蘭は思わず声に出していた。今のように彼を傷つけたままの状態で、別れたくなんかない。せめて、仲直りしてからでないと……。
――まあいい。とにかく行くか。
蘭はキッチンをそのままに、家を飛び出したのだった。
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