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”
「――おい、お前どうした?」
いつものカフェに到着すると、蘭は目を見張った。稲本はなぜか、左腕を包帯で吊っていたのだ。
「ヤバいネタでも追っかけたのか?」
「いや、違う。ゆっくり話すから、取りあえず座れよ」
なだめるように言われ、蘭は稲本の向かいに腰かけた。ふと、彼の胸ポケットの煙草の箱が目に入る。
「一本くれ」
蘭は、稲本の返事を待たずに箱を奪い取ると、煙草を抜き取って咥えた。
「ん、しまった。火もなかった」
稲本はくすりと笑うと、自分のライターで火を点けてくれた。
「どっちも持ってないなんて、珍しいな」
「うん……、まあ」
蘭は口ごもった。陽介は喫煙しない上、どうやら煙草自体嫌いらしいのだ。不在とはいえ、帰宅した時に部屋が煙臭かったら、嫌がるかもしれない。そう思って蘭は引っ越し以来、煙草を控えていたのである。
「で、『オメガの会』はどうなった?」
蘭は、稲本を促した。
「うん、勲と『オメガの会』とのパイプ役を担っているホステスに近づこうと、店を訪れたんだが……、すでに辞めた後だった」
「何だよ、それ。どこが進展なんだよ」
蘭は脱力した。
「まあ話を聞け。そのホステス……、本名は伊代 というんだが。現在病気で入院中、という情報をゲットした。俺は、その病院を突き止めて、潜入したんだ」
「お前、まさかその腕って……」
ああ、と稲本はにっこりした。
「自分で折った。同じ患者として近づくためにな」
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