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「……すげえ記者魂」  蘭は感嘆した。 「結婚までするお前に言われたくないな」 「俺のは、記者としてってよりも、復讐だから。……で? 近づけたのか?」 「ああ。偶然を装って、すでに二回話した。記者だとは思ってないみたいで、大分俺に心を開いてくれてる」  それは稲本の男性的魅力のせいだろうな、と蘭は思った。精悍な容貌と親しみやすい性格のせいか、たいていの女性は、彼とすぐ打ち解けるのだ。 「何か耳よりな情報は入ったか?」 「うん。まず一つは、彼女と勲はすでに別れたらしい。正確に言えば、捨てられたようだな。その精神的ショックも相まって、体調が悪化したようだ」 「なら、あまり有力な情報源にはならないんじゃ?」  勲に弄ばれたであろう伊代という女性には同情するが、別れたのでは最新ネタが手に入らないのではないか。蘭は悲観的になったが、稲本はけろりとしていた。 「いや、むしろ好都合だと俺は思うぜ? 伊代さんは恐らく、勲を恨んでる。うまく信頼されれば、重要な話も聞き出せるかも知れない」  ――失恋した女性の弱味につけ込むのか。  一瞬ためらったが、蘭は思い直した。自分が、批判できる立場か。同じようなことを、やらかしたくせに。いや、陽介にはもっとひどい仕打ちをした……。 「実は、すでに一つネタをつかんだ。『オメガの会』は、オメガ特有のパワハラやセクハラ被害の相談に乗るという名目で、会員から相談料として、大金を騙し取っているようだ」  蘭は、悠のことを思い出した。『オメガの会』に相談してみようか、と彼も言っていたではないか。  ――やっぱり、親友だし。一応忠告しておいた方がいいかも……。

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