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 蘭と稲本は、海を連れてNPO法人『オメガの会』を訪れた。建物は、意外にも質素だった。 「会員から搾り取って、儲けてるくせにな。堅実さをアピールしてるんだろう」  稲本は、苦々しげに言った。 「今日のカウンセリングは、職場でのセクハラ相談という設定だ。お前が相談している間に、俺は建物内を偵察するつもりだ。だから、職員を引きつけておいてくれ。頼むな」  了解、と蘭はうなずいた。三人で中に入ると、女性の職員が迎えてくれた。稲本が挨拶すると、職員は顔を赤くした。 「ようこそお越しくださいました……。ラッキーなことに、本日は、代表の沢木がこちらに来ているんですよ。せっかくですから、話を聞いていってください」  沢木薫子は、最近メディアにも頻繁に露出している。当然喜ぶだろう、と言わんばかりの態度だった。ちなみに、相談者は蘭だというのに、職員の視線は稲本に釘付けである。 「ええ、是非お聞きしたいです」 「では、こちらへどうぞ」  蘭たちは、小部屋へ通された。職員の姿がなくなると、蘭は稲本に耳打ちした。 「偵察は俺がやるから、お前があの職員の相手をしろ。あの女、お前に気があるみたいだからな」 「OK。なら頼んだぜ」  そこへ、ノックの音がした。入ってきたのは、艶やかな中年女性だった。 「初めまして、沢木と申します。本日はようこそいらっしゃいました」  沢木薫子は、にっこり微笑むと、蘭たちに名刺を差し出した。四十五歳だそうだが、とてもそうは見えない。色白で目はぱっちりと大きく、派手な顔立ちだ。つやつやした茶色いロングヘアが、上品に揺れている。体つきは小柄でほっそりして、見るからに可憐なオメガ女性、といった雰囲気だ。  ――詐欺まがいの行為を、やってるくせにな……。

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