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「……あら、可愛らしいお子さんですね」  沢木は、海に目を留めた。 「お二人にそっくり」  いい加減な、と蘭は吹き出しそうになった。どちらとも血が繋がっていないというのに。 「初めてのお子さんですか?」  答えようとしたその時、海が泣き出した。すみません、と蘭は謝った。 「いえいえ。三週間くらいでしょう? この時期は、大変ですよね。なかなか寝なくて」  沢木は、深刻そうに相づちを打った。 「お歌を歌ってあげるといいですよ」  そう言うと沢木は、子守歌風の音楽を、軽やかに口ずさみ始めた。蘭は、おやと思った。そのメロディを、どこかで聴いたことがある気がしたのだ。  ――知らないだけで、有名な曲なのかな……? 「ほうら、ご機嫌だ」  気がつくと、海は泣き止んでいた。蘭は、あわてて礼を言った。そこですかさず、稲本が質問する。 「沢木さんは、お子さんは?」 「あいにくご縁がなくて、この年まで独り身なんですよ」  沢木は、あっさり答えた。 「それは残念ですね。先輩ママとして、こいつにいろいろ教えてやってほしいと思ったんですが」 「私は無理ですが、こちらには子育て経験者がたくさんおりますから、お力になれますよ」  沢木は軽くかわすと、『オメガの会』の説明を始めた。いかに、社会的弱者であるオメガの力になれるか、と強調している。カウンセリングやイベントを主催しているなど、一見いいことしか言わない。しかし恐らく、一度足を踏み入れれば、搾取される仕組みに違いなかった。 「私からは、以上になります。細かいことは、先ほどの職員からお話しさせていただきますね」  大まかな説明を終えると、沢木はそそくさと席を立った。彼女が出ていくと、蘭は稲本をつついた。 「おい、今日来てよかったぞ。発見があった」

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