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「お前……、何でここに……」 「それはこっちの台詞だな」  陽介は、怒りに燃えた眼差しで蘭をにらみつけた。 「生後間もない子を連れ出して、君は一体何をやっているんだ。それから、一緒にいる男は何だ!」  陽介が、ずいと一歩近づく。壁に追い詰められて、蘭は縮み上がった。たまたま今日は外に連れ出したが、世話はちゃんとしていた。第一陽介だって、地方講演が終わっても戻ってこなかったではないか。文句を言われる筋合いはないと言いたかったが、今の陽介は何をするかわからない気がした。言い返すのは止めて、蘭は素直に謝った。 「ごめん。海を連れて出たのは悪かったよ。でも誤解しないでくれ。一緒に来たのは、『日暮新聞』時代の同僚なんだ。オメガが一緒の方が、取材がしやすいからって、頼まれた。社内には、オメガが少ないからさ。辞めた俺しか頼る奴がいなかったみたいで」  とっさに、嘘をつく。稲本の素性をバラしたのは申し訳ないが、他に言い逃れる方法を思いつかなかった。 「同僚、ねえ」  一語一語区切るように、陽介が言う。 「それにしては、ずいぶん親しげだったが。まるで三人家族のようだったぞ」  そう装ったのだから、当たり前である。蘭はため息をついた。 「だから違うって。ただの元同僚だよ。退社してからだって、ずっと会っていなかったし」  そのとたん、陽介は目をつり上げた。 「嘘をつくな!」  バン、と陽介が壁を叩く。内心おびえながらも、蘭は気丈に彼を見つめ返した。 「何だよ、嘘って……」 「事務所に、こんな写真が匿名で送られてきた。これでも君は、ずっと会っていなかったと言い張るつもりか?」  そう言って陽介は、数枚の写真を蘭に突きつけた。蘭は、ぎょっとした。それは、稲本と蘭がカフェで会っている写真だった。

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