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「――はぁっ……、はぁっ……」  蘭も、ほぼ同時に達していた。ふらふらと崩れ落ちそうになったが、陽介に腕を取られ、立ち上がらされる。はずみで陽介の精が、尻の狭間からあふれてこぼれ落ちた。それを見た彼は、満足げに笑った。 「ヒートでないのは惜しかったが……。これだけ注ぎ込んだら、ひょっとするかもしれんな」 「――お前っ……!」 「ああそれから」  陽介が、ぎろりと蘭を見すえる。恐ろしいほど酷薄な表情だった。 「もうピルで始末しようなんて、考えるなよ? 今度そうしようものなら……」  陽介の手が、蘭の喉にかかる。力はこもっていないものの、その気迫に、蘭は震え上がった。 「し……、しないっ! 約束する、から……」  声を裏返らせながらも、どうにかそう告げる。するとようやく、陽介の手が離れた。 「その言葉、忘れるなよ」  陽介は、手早く身なりを整えると、くるりと背を向けた。そのまま個室を出ていくかと思いきや、彼はふと動きを止めた。 「残念だったな。嫌いな男の子を(はら)むはめになって」  そうつぶやく陽介の横顔が寂しそうに見えて、蘭はドキリとした。 「別に、お前のこと嫌いじゃ……」  慌てて後を追おうとしたが、そこではたと、自分の無残な姿に気づく。蘭が逡巡した隙に、陽介はするりと個室を出た。立ち止まることもなく、トイレルームを出ていく。個室に一人取り残されて、蘭は顔を覆った。  ――何だよ。何で、こうなるんだよ……。

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