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9 自覚した気持ち
翌日蘭は、リビングのソファで一人、考え事をしていた。結局陽介は、昨夜もここに帰らなかった。蘭は、ひたすら海の世話をして過ごしたのである。
――一体俺は、何やってるんだろうな……。
勲に近づく目的で陽介と結婚したというのに、怒らせてばかりでそれどころではない。おまけに、赤子の世話まで押し付けられて。それに昨日は、『オメガの会』潜入の機会だったというのに、ほとんど何もできなかった。
そこまで考えて、蘭ははっと思い出した。陽介は一体どうして、『オメガの会』に来ていたのだろう。まさか彼も勲同様、ヤミ献金を受け取っているのだろうか。
そうは思いたくなかった。陽介は、勲とは違う。いい政治家だと思うのだ。蘭がオメガ性を理由に侮蔑された時、いつも庇ってくれた。養父母とまで戦ってくれたではないか。世襲は嫌だ、とも言っていた。そんな彼が、汚れた真似をするだろうか……。
――いや、彼だって選挙に落ちたら一巻の終わりだ。そのためには、資金はいくらでも欲しいだろう……。
選挙に向けて蘭を利用せよ、という勲の命令にも従おうとしていたではないか。しょせんは政治家のはしくれ、自分の当落のことしか考えていないのかもしれない。
――止め止め、初心に返ろう。
蘭は、ぶんぶんと首を振った。陽介をちょっとでもいい奴かな、などと思ったのが間違いだ。自分はあくまで、彼を利用することを考えよう。そのためには、どうやって仲直りすればいいだろうか。
――取りあえずは、稲本とのことを釈明しないとな。そもそも、浮気じゃないわけだし……。
とはいえ、真の目的を悟られるわけにはいかない。一体どう説明すれば納得するのだろうか、と蘭は頭を抱えた。稲本には、陽介が怪しみ始めたので当面会うのは止そう、と言っておいた。だが、いつまでも別行動を取るのも不便だ。
――そもそも、誰があんな写真送りつけたんだ……?
悩みが多すぎて、パンク状態だ。その上、さらに厄介なことがあった。蘭は、下腹に手を当てた。
――ヒートまで来たのかよ……。
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