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 ――突然、何だ……?  陽介からは、何も聞いていない。一瞬迷ったが、蘭は彼を部屋に上げることにした。何の用件かは知らないが、直接話すチャンスではないか。幸い海もよく眠っているし、寝室に隠しておけば大丈夫だろう。問題は、今がヒート状態だということだ。誤魔化すしかないな、と蘭は決意した。番以外にフェロモンは効かないのだから、態度さえ普通にしていれば、気づかれないだろう……。  程なくして、玄関のインターフォンが鳴る。服装の乱れを直して出迎えると、勲はにこやかに入ってきた。 「すまないね、突然お邪魔して」 「いえ、とんでもないです。こちらこそ、こんな格好で」 「綺麗な人は、何を着ていても綺麗だよ」  部屋着姿を弁解すると、勲はそんな軽口を叩いた。リビングに通し、お茶を出すと、勲は改まった様子で切り出した。 「今日はね、蘭さんに頼みがあって来たんだ」 「僕に、ですか」  一体何だろう、と蘭は警戒した。 「本来は極秘事項なんだが、蘭さんを家族の一員と見込んで打ち明ける。実は、今野総理は、近日中に衆議院を解散する手はずだ」  蘭は、ピンときた。国会では先日、重要法案が可決された。それを受けて、今野の支持率は上がりつつある。人気がある間に解散し、選挙に打って出よう、というもくろみだろう。 「驚かないね。予想していたかな? やはり賢い方だ」  勲は、大げさに蘭を褒めた。 「そこで、蘭さんの出番だ。陽介の選挙活動の、ヘルプをしてやってくれんかね。蘭さんのように美人で賢いパートナーが付いてくれれば、百人力だ」  そういうことか。蘭は、白柳家の書斎での、勲と陽介のやり取りを思い出して納得した。勲自身は参議院議員なので、今回は息子の応援に徹しようというのだろう。それに、幹事長といえば、選挙を取り仕切る立場でもある。 「陽介は、必要ないと言っているんだがね。どうせ、綺麗な新妻を人に見せるのが惜しいんだろう。だが、選挙となればそんなことは言っとられん。だからこうしてお願いにきた。どうかね、蘭さん?」 「――!」  返事をしようとした、その時だった。蘭は、躰がカッと熱くなるのを感じた。同時に、抑えがたい激しい欲求が、内側から突き上げてくる。

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