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”
「蘭さん?」
勲が、眉をひそめる。どうしよう、と蘭は思った。勲に、異変を悟られてはならない。だが、欲求は止まらなかった。蕾はすでに潤んでいる。今すぐにでも指を突っ込み、むちゃくちゃにかき回したくてたまらない。
「ひょっとして……」
蘭の様子をじっと見ていた勲が、にやりと笑った。
「蘭さん、今ヒートかな?」
ドキリとした。勲の瞳は、ギラギラ光っている。蘭は、思わずソファの上で後ずさった。
――フェロモンは、番以外に効かないはずでは……?
「フェロモンは感じ取れないが、わかるよ。その表情を見ていればね。さっきから、腰も揺れているし……」
言いながら勲は、やにわに立ち上がった。
「何っ……」
「何って、楽にしてあげるんだよ」
勲が蘭の肩をつかみ、ソファに押し倒す。覆いかぶさってくる彼を押しのけようと、蘭は必死に暴れた。
「止めてください!」
わめいたとたん、激しい頭痛が襲う。番以外に触れられたせいだ。蘭はもう一度、止めてください、と叫んだ。
「番と……、陽介とじゃないと……」
「そんなことは知っている」
蘭は、ぎょっとして勲を見上げた。その顔には、愉快そうな笑いすら浮かんでいた。
「番以外と交わって苦痛を感じるのは、オメガの方だけだろう。そんなことは、私 の知ったこっちゃない」
まさか、と蘭は思った。番のいるオメガを犯そうというのか。それも、実の息子の番を……。
「いいね、その顔。実に色っぽい……」
勲の手が、ためらいもなく蘭の部屋着にかかる。強引に潜り込んできた手に素肌をまさぐられて、蘭は吐き気を覚えた。本物の吐き気だ。頭痛も、いっそうひどくなっている。
――これが、番以外とする苦しみ……?
嫌だ、と蘭は思った。勲に触れられたくないのはもちろんだが、それ以上に……。
「陽介……!」
本能的に、絶叫する。その時、玄関の方で物音がした。
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