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 ダダダダ、とすごい勢いで足音が迫ってくる。勲は、瞬時に身を起こして蘭から離れた。ほぼ同時に、リビングのドアが開く。 「蘭!」  叫びながら入ってきたのは、陽介だった。彼は、二人を見比べて、血相を変えた。 「父さん、あなたって人は……」 「ヒートで辛そうだったから、介抱していただけだ」  顔色一つ変えずに、勲が言う。蘭はわめいた。 「違う! 無理やり襲われて……」 「オメガが番以外と交わったら、苦しむだけだ。そんな嘘が通用すると思ってるんですか!」  蘭が弁明しかけるのをさえぎって、陽介は勲に詰め寄った。 「それに、玄関に入った時、俺を呼ぶ蘭の声が聞こえた。息子の番を襲うなんて、この鬼畜が!」  陽介が、勲の胸ぐらをつかむ。怒りに燃えた眼差しに、蘭は焦った。陽介は、今にも勲を絞め殺しそうに見えたのだ。 「止めろ」  蘭は、やっとの思いで身を起こすと、陽介にすがった。陽介に暴力を振るわせたくない、ということもあるが、蘭自身の躰が限界だったのだ。番を目の前にして、欲求は最高潮に達していた。  ――もう、勲なんか放っておいて。それよりも、早く抱いてほしい……。  陽介が、蘭の方をチラと見る。蘭の切羽詰まった様子を察したのか、彼はふと冷静な表情に戻った。 「さっさとお引き取りください」  勲から手を離すと、陽介は冷たく告げた。 「いやいや、誤解されたままというのもねえ。今日来たのは、蘭さんに、お前の選挙のアシストをしてくれと頼むためだよ。お前が嫌がっていたから、留守の間にと思って……」 「帰れ、というのが聞こえませんでしたか」  勲は肩をすくめると、鞄を取った。そのまま、部屋を出ていこうとする。そんな彼の背中に向かって、陽介はこう言い放った。 「元々父親とも思っていませんでしたが、こうなった以上、あなたは俺の敵でしかありません。今度の参議院議員選挙で、再選はないものとお思いください」

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