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「やっぱり、寝室に行こう。ここには、ゴムがないから」 「ゴム?」  蘭は、聞き違えたかと思った。初回から、避妊など考えてもこなかった陽介が……? すると陽介は、照れくさそうな顔をした。 「その点も、反省したんだ。子供が欲しいと、俺の希望を一方的に押し付けてきたが、産むのは蘭だ。配慮がなかった、ってな……」  じわり、と胸が熱くなった。 「いいよ。……ゴムなしで、いい」  思わず蘭は、そう口走っていた。陽介が、目を見張る。 「本気で?」 「ああ。お前との子供、欲しいから」  蘭は、再び陽介に抱きついた。背中に腕を回して、ぎゅっと抱きしめる。そして囁いた。 「陽介。俺、お前のこと好きだ」  よその女に子供を産ませていようが、ヤミ献金を受け取っていようが、どうでもいい、と蘭は思った。こうして、助けにきてくれた。信じるとも言ってくれた。それで十分ではないか。何より、自分は陽介が好きなのだ。もう、自分の気持ちに嘘はつけない……。 「嬉しいよ」  陽介が、低くつぶやく。だが彼は、こう続けた。 「たとえ、本心でなくてもな。君の唇が、俺を好きだという言葉をつむいでくれる。それだけで、十分だ……」 「――おい! 俺は、本気だ!」  蘭は、陽介の瞳を見つめた。その瞳は、どこか寂しげな光をたたえていた。考えてみれば、当然かもしれない。蘭は、彼を利用する目的で近づいた。陽介は、それを承知で受け入れたのだから……。  ――でも、今は心から陽介を愛しているのに……。  やるせなくなった蘭は、噛みつくように陽介に口づけた。そのままソファに押し倒し、またがる。ゆったりしたソファだが、二人して横たわればさすがに狭い。うかうかしていれば転げ落ちそうになるのも構わず、蘭は次々と陽介の服を脱がせていった。

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