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「――どういうことだ!?」  蘭は、目をむいた。海は、陽介がよそに作った子供ではなかったのか……。陽介は、苦しそうな表情で語り始めた。 「前にもチラッと話したが、父は昔から、オメガの愛人を取っ替え引っ替えしてきた。そのくせ避妊をしないものだから、しょっちゅう子供をこしらえたもんだ。……まあ、この点は俺も人のことは言えないが」  陽介は、ちょっと苦笑した。 「だが父のひどいところは、そんな無責任な真似をしておいて、絶対に子供を産ませないことだ。相手には、無理やり中絶をさせてきた。ところが、どうしても産みたいという女性が出てきた。信じられないが、父を愛していたようだ」  もしや、と蘭は思った。稲本が接近している、伊代という女性だろうか。 「それで、父がどうしたと思う?」  陽介の眼差しは、例えようもないほど暗かった。 「その女性に、堕胎薬を飲ませようとしたんだ」  蘭は、言葉を失った。 「それに気づいた俺は、彼女を助け出し、密かにかくまった。そして、父には内緒で、彼女に子供を産ませた。それが彼女の望みだったからな……。それが海だ」 「……」 「だが彼女は、出産後、体調を崩した。とても一人では育てられないということで、やむなく俺が海を引き取ったんだ」  間違いない、伊代だ、と蘭は思った。 「君がここへ越してきてから、俺がしばらく家を空けていたのは、その手配に奔走していたんだ。本当は、君にもちゃんと説明するつもりだった。だが講演前で急いでいて、つい脅しめいたことを言ってしまった。それと……、やはりあの時は、君に腹を立てていたからな。誤解されているのはわかっていたが、あえて弁解しなかったんだ」  すまなかった、と陽介は再度謝った。

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