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10 最悪の裏切り

 それから数日後、蘭はマンションで一人、海のおむつを替えていた。そろそろ海も、生後一ヶ月になる。最近はにこにことよく笑うようになったし、『あー』『うー』と声を上げるようにもなった。本当に可愛らしい。唯一残念なのは、おおっぴらに外を連れ回せないことだ。抱っこして近所をうろうろして、マスコミに見とがめられてもまずい。蘭にできることといえば、せいぜいバルコニーに出して、日光浴をさせてやることくらいだった。  ――今日も良い天気だな……。  日光浴の準備をしていたその時だった。スマホが鳴った。稲本からだった。 『いつになったら、会って相談できる?』   蘭は、ため息をついた。いくら陽介が一応納得したとはいえ、やはり彼と会うのは気がとがめた。とはいえ、さすがに陽介に、勲失脚計画を企てていた、とバラすわけにもいかない。口では何のかんのと言っても、二人は親子だ。それに勲は、陽介にとって政界の大先輩であるだけでなく、選挙を取り仕切る幹事長の立場でもある。総選挙を約一ヶ月後に控えた今、勲と陽介の関係がこじれるのはまずいだろう。  ――それに。  蘭は、怖かったのだ。真の目的を知ったら、陽介は自分から離れていくかもしれない……。  再び、稲本からメッセ―ジが来た。 『新情報だ。『オメガの会』代表沢木薫子が、与党公認で出馬するようだ。献金の見返りだろう。俺の勘だが、沢木は勲とできてるな』 「おい、それを早く言え!」  蘭は、思わずスマホに向かって怒鳴った。沢木はメディアへの露出度も高く、名が売れている。おまけに美人だから、与党にとっては格好の広告塔なのだろう。勲は、オメガ保護を選挙の目玉にすると言っていたし、オメガ保護団体代表の彼女なら、当選は確実だろう。 「勲とつるんでるような奴、絶対当選なんかさせるか……」  蘭は、即座に稲本に電話をかけた。

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