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「おい、確かなネタか?」
稲本が出るなり、蘭は怒鳴った。
『お、思ったより元気そうだな。ガキの世話でへろへろかと思ったが』
稲本は、おかしそうに笑った。
「大分慣れたから」
海が勲の子だということは、稲本には黙っておこう、と蘭は思った。稲本は鬼の首でも取ったように、スクープ記事にするに違いない。海をそんなことには巻き込みたくなかった。
『出馬は確実だ。勲との関係は、探ってる途中。相当したたかな女だな。今経歴をたどっているが、政財界の男を次々手玉に取っている』
「子供の有無はわかったか? ほら、出産経験があるかもと言っただろ?」
『うーん、お前はそう言うが……。今のところ、そういう情報は見つからないな。少なくとも、結婚歴がないのは確かだ』
稲本は、困惑したような声を上げた。
「そうか……。なら、こっそり不倫の子でも産んだのかも。何とかして、世間に暴露したいな……。選挙前に、格好のスキャンダルになるぞ。オメガを食い物にするような奴に、政界進出なんてさせてたまるか」
蘭は、鼻息荒く言った。
『まあそれも探るが、献金問題の方が話が早いと思うぞ。伊代さんとは、大分親しくなった。彼女から証拠を引き出すまで、あと一歩というところだ』
「お、お手柄じゃん」
蘭は、勢い込んだ。
「彼女、お前に惚れたんじゃね?」
からかうように言うと、稲本はふと黙り込んだ。
『そういうこと言うなよ』
暗い口調に、蘭は戸惑った。潔癖な性格の稲本からすれば、情報目的で接している相手に好かれるのが、心苦しいのだろうか。
「悪い……。でも、もしお前の方も彼女をいいなと思うんだったら、付き合うのもアリかなって思ったんだ」
むしろそうなってほしいな、と蘭は思った。伊代は、勲にひどく傷つけられた。会ったこともない女性だが、次は素敵な恋をしてほしいと思うのだ。稲本は、いい奴だ。付き合ったら、彼女は幸せになれるだろう。
『……本気で、言ってるのか?』
ややあって、稲本は低い声で言った。
「ああ。不純な目的で始まることは、気にしなくていいと思う。俺と陽介もそうだから。俺、陽介のこと、真剣に好きになり始めたんだ」
電話口で、稲本が息をのむ気配がした。
『……もう切るぞ』
その言葉と共に、電話は唐突に切れた。
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