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”
「何だ、あいつ?」
スマホを見つめて、蘭は首をかしげた。稲本の様子は明らかにおかしかったが、理由がわからない。
――そうか。
蘭は、ぽんと膝を打った。きっと、蘭が何も成果を上げていないことに、不満を抱いているのだろう。大口を叩いて白柳家に潜入した割には、蘭は何ら情報をつかめていない。あちこち奔走して調査しているのは、もっぱら稲本だ。
――でも陽介には、勲を家に上げるなと言われたしな……。となると、こっちから白柳家に出向くしかないか……。
あれこれと考えを巡らせているうちに、蘭は良い口実を思いついた。とはいえ、海を放っては行けない。
――仕方ない。結局、頼るしかないか。他に、海を預けられる人はいないからな……。
再び稲本に電話すると、彼は普通に応対した。どうやら、怒っているというほどでもないようだ。
「何度も悪いな。勲の今日の予定はわかるか? 帰宅する時間が知りたい。できれば、奥さんのも」
『ちょっと待てよ』
さすがに政治部だけあって、稲本はすぐに情報をくれた。
『会食を終えて……、二十時頃帰宅だ。奥さんもその頃は、在宅している』
よし、と蘭はうなずいた。妻が在宅しているのなら、先日のように襲われることもないだろう。
「俺、その時間に白柳家を訪れようと思うんだ。探りたいことがある。……それで稲本、すまないけどその間、海を見ていてくれないか? 一時間だけでいい」
稲本は一瞬沈黙した後、静かに言った。
『その前に、一つ確認しておきたい。……白柳陽介を好きになったというのは、本当か?』
「あ、誤解しないでくれ」
蘭はあわてた。
「それと勲の件は、別だから。確かに陽介を好きだけど、勲を失脚させたいという、当初の思いは変わってない」
『わかった』
稲本は、案外あっさりと了承した。
『赤ん坊の件は、了解だ。前回同様、車で迎えに行く』
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