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 蘭は、青ざめた。 「いつの間に……」 「つい今日だ。……ああ、安心しろ。お前の顔には、モザイクをかけて渡したから」  稲本が、平然と言う。蘭はわめいた。 「馬鹿野郎! 何てことしてくれるんだよ! 約束しただろうが、情報は漏らさないって! しかも、よりによって選挙前に……」 「お前が悪いんだろうが!」  稲本が、負けじと怒鳴り返す。 「俺の気持ちも知らないで、他の女を薦めて……。あげく、白柳陽介を好きになり始めた、なんて言うから! あんな野郎、落選すりゃいいんだ!」  蘭は、稲本を力任せに引っぱたいた。バシン、と鈍い音が響く。 「海は、陽介の子じゃない。勲と伊代さんの子だ!」  稲本は、はっと顔色を変えた。 「何……、だって?」 「陽介の子だというのは、俺の誤解だった。伊代さんが今入院してるのは、産後体調を崩したせいだ。陽介は、彼女を気の毒に思って、海を引き取ったんだよ。あいつはそんな思いやりのある人間なのに、お前ってやつは……」  蘭は、怒りに燃えた目で稲本をにらみつけた。 「すぐ写真を回収しろ! 絶対に、記事にはさせるな!」 「……いや、それは無理だと思う。あの雑誌は、政治家のスキャンダルを売りにしている。大喜びで飛びついてた……」  俺の手元に残っているのはこれだけだ、と稲本が写真を差し出す。蘭は、それをひったくると、海をぎゅっと抱きしめた。  ――俺はどうなってもいい。この子を、好奇の目にはさらしたくない……。 「稲本。お前とは絶交だ。もう口も利きたくない」  蘭は、そのままくるりと踵を返すと、部屋を走り出た。同時に、苦渋の決断をしていた。  ――こうなった以上、仕方ない。陽介に、全てを打ち明けよう。あいつに近づいた目的も、何もかも……。  それで陽介が離れていったとしても仕方ない、と蘭は覚悟した。自分は、それだけの仕打ちを彼にしてしまったのだから……。

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