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11 正式なパートナー

 蘭は、すぐに陽介の携帯に電話をした。 「忙しいのに悪い。でも大事な話があるんだ。今日は、うちに帰れるか?」  彼が出るやいなや、蘭は息せき切って尋ねた。 『そのつもりだが……、遅くなるぞ? 何かあったのか?』  陽介は、不審に思ったようだった。 「急ぐんだ。……そうだ、これから事務所へ行っていいか? 少しでいいから、時間を取ってほしい」  事態は、急を要する。陽介の帰りを待つよりもその方がいいだろう、と蘭は考えた。陽介も、蘭のただならぬ様子を察知したらしい。わかった、と答えた。 「ありがとう。そっちへ着くのは……、ええと、一時間後くらいだ」  海を連れてタクシーで事務所へ行けば、運転手から情報が漏れないとも限らない。おむつも替えてやらないといけないし、一度マンションへ戻って車で出直そう、と蘭は判断した。 『その頃だと、来客中だな……』  陽介は、ちょっと考えてから、こう言った。 『それなら、古城さんに事情を話しておく。着いたら彼を呼んで、その指示に従ってくれ』   古城というのは、陽介の秘書である。だが蘭は、ためらった。 「……でも、海も連れていくんだ。秘書に知られるのは、まずくないか?」 『大丈夫だ。古城さんは、海のことを承知している』  蘭は、ほっと胸を撫で下ろした。 「わかった。じゃあ、一時間後に」  電話を切ると、蘭はタクシーをつかまえて、マンションまで戻った。念のため、少し離れたところで降ろしてもらう。海のお出かけセットを準備すると、蘭は陽介の車を運転して、事務所へ向かった。  到着した蘭は、驚いた。事務所前には、すでに古城が待機していたのだ。いつぞやの講演会で、蘭が陽介を誘惑するため、偽情報で翻弄させた男である。

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