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「――落ちましたよ」  蘭は、古城の目を見すえて言った。 「この居酒屋、よく行かれるんですか」 「おお、これは失礼しました」  古城は、表情を変えることなく、カードを拾い上げた。 「贔屓、というほどではないですね。私、飲んべえでして。新しい店ができると、すぐ行きたくなるものですから。おかげで何が何やら」  古城は、ポケットから財布を取り出すと、蘭に見せた。似たようなバーや居酒屋のカードが、山ほど入っている。 「女房にはがみがみ言われてるんですけどねえ。ハードな仕事なんだから、少しくらい発散させてくれというのに」  古城が微笑む。考えすぎだろうか、と蘭は首をひねった。  ――陽介の秘書が、悠の勤める店に行っていた。これは、偶然か……? 「待たせたな」  そこへ、陽介が入ってきた。古城は、一礼して出ていく。取りあえずその件は後回しにしよう、と蘭は思った。今は、それどころではない。 「陽介、まずいことになった」  古城が去るのを確認して、蘭は陽介に告げた。 「海がお前の隠し子だというネタが、週刊誌に渡った。写真まで撮られた」  陽介の片眉が、ぴくりと上がる。 「どこの雑誌だ?」  蘭は、稲本から聞いた誌名を告げた。 「わかった。すぐに手を回して……」  早くも部屋を出ようとする陽介を、蘭は押しとどめた。 「急ぐのはわかる。でも、聞いてくれ。ネタを流したのは、稲本なんだ。……陽介、ごめん。実は、俺と稲本は、勲先生を失脚させる計画を練っていた。俺がお前に近づいたのは、そのためだった。でも、途中で俺たちは仲間割れして、稲本が勝手に海の写真をリークしたんだ」  陽介の瞳が、これ以上ないほど大きく見開かれる。蘭は、海を抱いたまま立ち上がると、彼に向かって深々と頭を下げた。  「今まで騙していて、本当にごめんなさい!」

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