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蘭は、目を丸くした。陽介は、まだ当選一回。政務官のポストすら、経験していないというのに……。 「首相になれなければ、政治家になった意味はないだろう」  陽介は不敵に笑った後、不意に真面目な表情になった。 「父はね、ある意味運の悪い人なんだよ。総理の座に近いところまで行っては、逃してきた」  そういえば、と蘭は思い出した。総理は国会議員の中から投票で選ばれるため、通常は与党の党首が総理に就任する。白柳勲が党首を務めていた頃は、与党が下野(げや)(政権交代で野党に退くこと)していた時代だったため、彼は総理になれずじまいだったのである。 「だから口には出さないが、父は総理大臣の地位に異常な執着がある。陰の実力者などと言われて偉そうにしているが、本音はそうだ。だから俺は、父がなれなかった総理になる」 「陽介……」  蘭は、陽介の手をぎゅっと握った。 「俺、応援する。お前は、立派な政治家だよ。オメガのことも、ちゃんと認めてくれて……。だから、お前のことちゃんとサポートして、絶対に総理大臣にしてみせる。俺たちは、公私共にパートナーだ」  すると陽介は、驚いたような顔をした。 「何だよ?」 「初めてだな、と思って。ストレートに『パートナー』と言ってくれたのは。これまでは、ずっと『仮にも』って前に付けていただろう?」  言われてみればそうだったかな、と蘭は思い巡らせた。  ――結構、気にしてたんだ……。  やや罪悪感を覚える。どう返そうか迷っていると、陽介は席を立った。自室へ消えたかと思うと、彼は小箱を持って戻ってきた。 「君の同意も得たということで、今日から俺たちは、正式にパートナーとしてスタートする。……だから、付けてくれるか?」  差し出された小箱の中には、一組の結婚指輪が収められていた。

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