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「――冗談だろ!? お前の親父だぞ?」  混乱する蘭を見て、陽介はくすりと笑った。 「いかにも。でも俺は以前から、父はさっさと政界から退くべきだと考えていた。あの人が政治家でいるのは、この国にとってよろしくない。とはいえ、まともに説得したところで、耳を貸すような人じゃないからな。どうやったらスムースに引退させられるか、策を練っていたところなんだ」  何と、陽介も同じ事を考えていたとは。蘭はあっけにとられた。 「蘭を味方とみなして打ち明けるが、目下俺が狙っているのは、献金ネタだ。父は、とある団体からヤミ献金を受けている。俺は、その証拠をつかんで、父に突きつけるつもりだ。黙っている代わりに、引退せよとね」 「――もしかして、『オメガの会』か?」  陽介は、意外そうな顔をした。 「君も気づいていたのか。……ひょっとして、それであの日、本部に来ていたのか?」 「うん。お前も?」  ああ、と陽介はうなずいた。 「代表の沢木に、接触しに行ったんだ。とはいえ、相当したたかな女で、なかなかしっぽはつかめそうにない」  陽介でもか、と蘭はやや弱気になった。 「俺、実は勲先生に頼んだんだ。沢木と話す機会をくれって。近々、直接接触するつもりだ」  少しは陽介の役に立つかと思ったが、彼は渋い顔をした。 「派手な動きは危険だぞ? 俺も、確固たる証拠を得るまでは、父には従順な態度を取るつもりだ。君が襲われた時はカッとなったが、基本的にはハイハイと言うことを聞くふりをしている」  もしや、と蘭は思った。 「俺を選挙向けに利用しろって言われた時も、そうだったのか?」 「ああ。実際は、蘭は何もしなくていい……。というか君、何でその話を知ってる?」  陽介が、眉をひそめる。一瞬しまったと思ったものの、こうなったら洗いざらいぶちまけよう、と蘭は覚悟した。 「悪い。お前と勲先生の話、立ち聞きした」  やれやれ、と陽介は肩をすくめた。 「ま、それくらいの方が頼もしいが……。未来のファーストレディーとしてはな」  蘭は、目を見張った。陽介は、蘭を見つめて宣言した。 「俺は、必ず首相の座に就くぞ」

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