121 / 279

「図星か」  陽介が、にやりと笑う。 「――何で、それを?」 「『オメガの会』で君ら三人を見かけた時に気づいた。そいつが、君を見る目つきでな。後は、俺の直感だ。同じ人間に惚れた者同士の」 「ごめんな」  蘭は、ぺこりと頭を下げた。 「俺の方は、ずっと友達だと思ってたんだ。勲先生を失脚させてやる、と俺が息巻いていた時、あいつが協力すると申し出てくれた。自分も、勲先生が嫌いだからと……。信用して、今まで一緒にやってきたけど、あいつの気持ちには気づかなかった。俺がお前と結婚して、好きになったことで、逆上したみたいだ。お前や海を巻き込んで、本当に申し訳なかった」 「気にするな」  陽介は、ぽんぽんと蘭の頭を撫でた。 「俺だって、自分の子だという誤解を解かなかったわけだし……。記事にはならないんだから、蘭は気に病まなくていい」 「本当か?」  蘭は、ほっとして顔を上げた。 「ああ。でももう、そいつとは会うなよ?」 「わかってる! 稲本には、絶交だと言い渡した。二度と連絡も取らないから、安心しろ」 「それならいいが。蘭は自分の魅力に鈍感だから、気がもめて仕方ないんだ……。父の時といい、今回といい」  陽介は、ぶつぶつ言った。 「俺はこれから、選挙活動で家を空けることが多くなるが、おとなしくしてろよ?」 「わかったよ」  蘭は、口をとがらせた。 「ったく、ヤキモチ焼きなんだからな~」 「蘭が魅力的すぎるからだ」  陽介が、再び抱きしめてくる。二匹の子犬のようにじゃれ合いながら、蘭は幸福に酔いしれた。この後とんでもない事態が二人を待ち受けているとは、夢にも思わずに。

ともだちにシェアしよう!