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 数日後、蘭は一人でNPO法人『オメガの会』の本部を訪れた。受付で名乗ると、職員は下にも置かぬ扱いで、蘭を案内してくれた。白柳勲幹事長の息子のパートナー、という情報は、十分すぎるほど伝わっているようだ。  建物の最上階の、執務室のような部屋へ通される。沢木薫子は、蘭を見ておやという顔をした。 「あなた、確か前にいらした……」 「そうなんです」  蘭は、笑顔を作った。 「実は僕、『日暮新聞』に以前勤めていまして。あの時は、同僚がこちらを取材したいというので、同席させていただきました。その方が話が通じやすいだろうということで、オメガのパートナーと子供がいるふりをしたんです。嘘を申し上げて、申し訳ありませんでした」 「あら、そうでしたか……。でも、『日暮新聞』さんには、以前も取材を受けたと思いますが」  沢木は、怪訝そうな顔をした。 「同僚は、自分だけのスクープを狙っていまして」  稲本を悪者にするのは気が引けるが、言い逃れるにはこれしかない。それ以上突っ込まれる前に、蘭は深々と頭を下げた。 「改めまして、白柳蘭と申します。本日はお忙しい中、お時間を取っていただき、ありがとうございます」 「蘭……さん?」  沢木が、蘭の名を復唱する。顔を上げると、彼女はなぜか表情をこわばらせていた。 「ああ、女性みたいな名前ですよね。自分でもそう思います」  蘭は軽くかわしたが、沢木はしばらく黙り込んだ。ややあって、彼女はためらいがちに尋ねてきた。 「失礼ですが、蘭さんはおいくつでいらっしゃいますか?」 「今年、二十八になりますが」  沢木が、再び沈黙する。

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