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「お待たせしました」  そこへ、沢木が戻ってくる。蘭は、何事もなかったかのように話を続けた。一段落付いたところで、蘭は話題を変えた。 「本当に、すごいご活躍ですね。……ところで失礼ですが、沢木さんは独身でいらっしゃいますよね? アルファの番になろうとは、思われないのですか?」  一筋縄ではいかない女だ。戦法を変えてみよう、と蘭は思った。素早く観察したところ、沢木のうなじに噛み痕はない。様々なアルファの男を利用しながらも、番にはさせなかったのだろう。 「そういうつもりはないですね」  沢木は、きっぱりと答えた。 「これまで、思われたことは全くないですか?」 「ええ。アルファには頼らず、一人で生きていきたいと思っているんです」  そう告げた後、彼女は、あ、と小さく声を漏らした。 「すみません。アルファの番になる生き方を、否定しているわけではないんですよ。そういう幸せも、ありだと思っています」  蘭が陽介の番であることを、思い出したのだろう。彼女は、やや弁解気味に言った。 「気になさらないでください。僕もかつては仕事一筋で、番を作る気はありませんでした」 「でも、陽介先生に出会われて、お気持ちが変わったんですね」  沢木はにっこりした。 「立派なアルファと結婚されて、ご両親も安心なさっているのでは? ……蘭さんのご両親は、どんな方ですか?」  ――俺の親のことなんか聞いて、どうする気だろう。

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