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 やや不思議に思ったものの、蘭は、『M&Rシステムズ』という会社を経営している、と告げた。 「まあ、有名なIT企業じゃないですか。いえね、うちの法人も、IT化の推進を考えていて。蘭さんのご実家なら、是非お世話になりたいわ。お願いできるでしょうか?」  沢木は、真剣な表情だ。どうやら社交辞令ではなさそうである。弱ったな、と蘭は思った。現在、蘭と養父母とは、絶縁状態なのだ。陽介と共に実家に挨拶に行って以来、養父からは何度も、白柳家との間を取り持ってくれ、という電話がかかってきた。だが、勲失脚計画に彼らを巻き込むことを恐れた蘭は、無視を貫いた。事情を知らない養父は、それに激怒したのである。 「……そうですね。お力になりたいのは、やまやまなのですが」  蘭は、慎重に答えた。 「正直、両親との関係はかんばしくなくて。ご期待に添うのは、難しいかと思います」 「……」  沢木は、黙り込んだ。気分を害しただろうか。蘭は、あわててフォローした。 「申し訳ありません。実は僕は、両親とは血が繋がっていないんです。いわゆる、養子でして。普通の親子のように、気軽に頼みごとができる間柄ではないんです」  そのとたん、沢木は大きく目を見開いた。蘭は、怪訝に思った。 「どうかされました?」 「――いえ」  しばらくして、沢木からはようやく返事が返ってきた。だが、明らかに様子は変だ。テーブルに置かれた手は、小刻みに震えている。 「蘭さん。すみませんが、そろそろ次の予定がありまして。今日はここまでにさせてください」  沢木は、蘭と目を合わせることなく、そう告げた。

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