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13 偽物の妻

 翌日蘭は、マンションで一人、パソコンに向かっていた。  陽介は今日から、地方を回っている。公示はまだだが、講演活動なら許されるので、少しでもPRするのである。初日の今日は、大阪だ。  ――あいつも、頑張るよなあ。  蘭は、昨日の陽介との会話を思い出していた。何か手伝うことはないか、と尋ねた蘭に対し、陽介は特にない、と答えたのだ。 『君には、海をよろしく頼むよ。……ああ、これが各地での宿泊先だから。古城さんが手配してくれた』  陽介は蘭に、ホテル名と号室の一覧を書いたメモを渡した。 『了解。しかしお前も、頑張るよな。比例名簿では上位なんだろ? 楽勝だってのに』  蘭は、軽口を叩いた。冗談めかしているが、陽介を気遣ってのことだ。週刊誌騒ぎに海の健診と、選挙前だというのに陽介には負担をかけ通しだった。だが彼は、真剣な顔でかぶりを振った。 『いや。俺が名簿に入ったことで、重複した小選挙区候補者が、一人落ちることになるんだからな。彼らのためにも、気は抜けない。いくら今、与党の支持率が高いと言ってもな……』  ――本当に、仲間思いっていうか……。  その時、スマホが通知音を告げた。稲本からだった。蘭は無視しようとしたが、件名にふと目が留まった。 『白柳勲失脚計画からは、降りることにする』 ※ご参考:衆議院議員選挙では、小選挙区制と比例代表制を組み合わせた小選挙区比例代表並立制を導入しています。  比例代表制の投票時には、政党名を記入し、政党の得票数に応じて議席数が決定します。そして、あらかじめ定められた名簿により、上位者から順に当選者となります。  また、小選挙区の候補者は、同時に比例代表選挙の名簿に名前を載せることが可能です(重複立候補)。そのため小選挙区で落選しても、比例代表選挙での復活当選もあります。

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