138 / 257
”
「何言って……」
蘭は、まだ信じられなかった。悠が、歌うように言う。
『あー、ここまで長かった。いろんな手を使ってみたけど、陽介、なかなか落ちないしさ。セクハラ被害をでっち上げても、二人きりでは相談にも乗ってくれないし』
「でっち上げだと? あの話、嘘かよ?」
蘭は、カッとなった。
「よくも、あれこれ画策してくれたな! アフターピルのレシートを、寝室に落としたのもお前だろう!」
『ああ、あれね。気づいてたんだ』
悠は、あくまでもけろりとしていた。
『でも、元はといえば、蘭が陽介に隠れてそんなことするから悪いんじゃん?』
「――お前を見損なったよ、悠」
蘭は、低い声で告げた。
「自分の欲得のために、俺を裏切って……。古城さんまで利用したな? 知ってんだよ。彼、お前の居酒屋に来てただろう。彼から、陽介のホテルの部屋番号を聞いたな?」
『ああ、古城さん?』
悠は、こともなげに答えた。
『別に、僕が一方的に利用したわけじゃないよ。向こうだって、僕と楽しんだんだ。彼、オメガと経験がなかったみたいだね。誘ったら、最初はためらってたけど、途中からはがっついてた。だから、ウィンウィン……』
古城はベータだが、ベータの男の中にも、オメガとのセックスに興味を抱く者は多い。ヒート中にフェロモンで誘惑されたら、逆らえないだろう。ギリ、と蘭は歯を食いしばった。
「何がウィンウィンだ! 古城さんとも寝たのかよ、この淫売が!」
『淫売は蘭の方だろ』
不意に、悠の声が低くなった。
『結婚してるのに稲本さんと密会したり、ヒート中に勲先生を家に引き込んだりさ』
まさか、と蘭は愕然とした。
「全部、お前の仕業か! 稲本との写真を陽介に送ったのも、勲に、俺がヒートだと密告したのも……」
ともだちにシェアしよう!