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 ところが、出かける支度をしていると、スマホが鳴った。見ると、沢木からのメッセ―ジだった。そういえば、連絡先を交換していたのだ。 『SNSを見ました。蘭さん、大丈夫ですか? 差し出がましいようですが、私でよければご相談に乗りますよ。今夜は遅くまで本部におりますので、よかったらいらしてください』  こんな時に、と蘭は顔をしかめた。だが、断りのメッセ―ジを打とうとして、蘭はふと思いついた。盗聴器を回収するチャンスだ、と気づいたのだ。あまり長い間仕掛けていると、見つかる恐れがあるので、頃合いを見て取り戻そうと考えていたところだった。向こうから言ってくれたのなら、渡りに船だ。  ――計画変更だ。大阪へ行く前に、沢木の所へ寄ろう。  『オメガの会』に到着すると、沢木は沈痛の表情で蘭を迎えたが、海を見て固まった。 「大変なことになりましたね……。それで、そのお子さんは? 最初の時もご一緒でしたよね」 「甥っ子です」  蘭は、用意していた嘘をついた。 「ああ、義理のご兄弟がいらっしゃるんでしたね。蘭さんがお世話を?」  養父母には実子もいることを、沢木はすでに知っているようだった。 「ええ、たまに」  そう答えると、沢木は複雑そうな顔をした。 「失礼ですが、義理のご両親やご兄弟とは、本当に上手くやってらっしゃるんですか? 私でよければ、頼ってくださいね。母親と思ってくださっていいですから」  ――何でそこまで言うんだ……?

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