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”
蘭は、ひとまず車に乗り込んだ。陽介は、後部座席に移動すると、蘭の手をぎゅっと握った。
「間に合ってよかった……。俺の話を聞いてくれるか?」
近くで見ると、陽介の頬は、なぜか腫れ上がっていた。蘭は、思わず尋ねた。
「お前、その顔は? 大丈夫かよ?」
「気が抜けるな、全く。こんな旦那の心配かよ?」
運転席の稲本は、呆れたように笑った。
「……大したことじゃない。まずは、SNSの投稿の件について、説明させてくれ」
陽介は、真剣に蘭を見つめた。
「順を追って話すと、まず相沢悠が、いきなりホテルの部屋にやって来たんだ。蘭からの差し入れを持ってきた、と言ってな」
「何だ、それ? 俺、そんなことしてないぞ」
蘭は、気色ばんだ。
「ああ。でもその時は、信じてしまった。こんなメッセ―ジが来ていたからな」
そう言って陽介は、スマホを蘭に見せた。いつも二人がやり取りしている、トークアプリの画面だ。確かに蘭自身のアカウントから、メッセ―ジが送信されていた。
『講演お疲れ。悠が今日、そっちに用があるって言うから、差し入れを言付けたぜ』
「――何だ、これ!? 俺、こんなメッセ―ジ送ってない!」
蘭は、唖然とした。稲本が、口を挟む。
「恐らくアプリか、またはスマホ自体の乗っ取りだろう」
そういえば記者時代、そんなケースを取材したことがあった。いろいろな手口があるようだが、悠の場合は長い付き合いだから、蘭のパスワードを推測できたのだろう。まさか自分が被害に遭うとは思わなかった、と蘭はため息をついた。
「俺も、これを読んでいたから信用してしまった」
陽介が、苦々しげに言う。
「でも、信じてくれ。相沢を部屋には入れていない。品だけ受け取って、帰らせたんだ。ところが、料理を食べたら、急激に眠くなった」
「……まさか、睡眠薬?」
おそらくは、と陽介はうなずいた。
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