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”
「普段から君の作る味とそっくりだったから、疑いもしなかった。でも後から思えば、君の料理にしては、見た目が整いすぎていたな。その時点で妙だと思うべきだった」
「おい!」
陽介をこづきながらも、蘭は思い出していた。料理に自信のない蘭は、結婚祝いとして悠がくれたレシピに、頼り切っていた。あのレシピを作ったのは悠なのだから、二人の料理は似た味になって当然だ。あれをプレゼントした時点でそこまで計算していたのか、と思うと、蘭は背筋が寒くなった。
「はっと気がついたら、相沢とベッドにいた……。寝ている間に、奴が侵入したんだ。信じられないかもしれないが、これは本当だ!」
陽介が、必死の眼差しでうったえる。蘭は、静かにうなずいた。
「――信じてくれるのか?」
「ああ。悠は、古城さんと通じてる。ホテルの部屋を手配したのは、古城さんだろ? その際、キーを二つもらって、一つを悠に渡したんだろう」
蘭は、陽介の目を見つめた。
「さっき、古城さんと電話で話した。彼、勲先生に生涯忠誠を誓っている、と言ってた。彼は勲先生に命じられて、悠をお前の妻に仕立て上げたんだ」
「やはりか。俺も、さっきの事務所の発表を見て、古城さんを疑った……。ああもちろん、あれは彼が勝手にやったことだ。俺は何も知らされていなかった」
陽介は、複雑な表情を浮かべた。
「相沢は、あの後すぐに叩き出したが、俺が心配したのは、蘭、君のことだった。きっと怒っているだろうと……。すぐに、新幹線で帰ってきた。途中で連絡を入れなかったのは、眠らされている間に、俺のスマホも乗っ取られている可能性があったからだ」
すまない、と陽介は再度頭を下げた。
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