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「かつて父に仕えていたから、というだけじゃないんだ。古城さんは、父に恩義がある。彼の母親が重い病気にかかり、手術が必要になったことがある。その際、父は費用を出してやったんだ。親の命の恩人ということで、父は古城さんにとって、絶対的な存在なんだよ。だから、俺が海を救おうとした時も、力になってくれた。大切な勲先生の血を引くお子さんだから、と」  なるほど、と蘭はうなずいた。 「でも勲先生、いいとこもあんじゃん」  陽介は、フンと鼻を鳴らした。 「どうだかな。大きな貸しを作りたかっただけだと思うが。古城さんを、一生縛るためのな」  ――たとえそうだとしても、一人の人間の命を救ったことに変わりはない。  蘭は、少しだけ勲を見直した。 「陽介、疲れたろ。ビールでも飲むか? あ、その前に怪我の手当てしてやる」  タオルを冷やし、腫れた頬に当ててやると、陽介は何とも言えない顔をした。 「こんな俺を気遣ってくれるのか? 正直に言ってくれ。相沢とのこと、どう思ってるんだ? あいつのことだから、蘭にも何か言っただろう?」 「……うん」  一瞬ためらったが、蘭は悠との電話内容を全て話した。 「最低な野郎だな」  陽介は、吐き捨てるように言った。 「誓って、愛してるなんて言っていない。もちろん、蘭よりも好きだ、なんてこともな。番にもしていない。目を覚ましたら、奴はこれ見よがしにうなじを見せつけてきた。でも、あの噛み痕は偽物だ。メイクか何かで、上手に偽装していた。すぐ見破ったから、怒鳴りつけて部屋から追い出したさ」  ――そうだったのか。  スマホの画面越しだったから、てっきり本物の痕かと思った。少しほっとしたものの、蘭の胸にはまだわだかまりがあった。 「番にしてないってことは納得した。でも、その……。正直に答えて。悠とは寝たの?」  陽介が沈黙する。

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