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 蘭は、耳を疑った。  ――なぜだ……!?  約束してくれたではないか。あの発表はきちんと否定する、と……。陽介の台詞が、頭の中でこだまする。 『蘭は、俺のただ一人の番で、大事な妻だ……』 『蘭以外の人間が妻だと誤解されるなんて、耐えられないから……』  あの言葉は、嘘だったのか。会見はまだ続いていたが、内容は何も、頭に入ってこなかった。呆然としていると、スマホが鳴った。着信画面を見て、蘭は驚いた。久しく連絡を取っていない、養父からだったのだ。 『ああ、蘭。何がどうなっているんだ? 陽介先生の、あの会見は何だ』  養父は、ひどく怒っている様子だった。絶縁状態だったというのに、自分を案じてくれたのだろうか。少し心温まった蘭だったが、彼は意外な台詞を続けた。 『全く……。勲先生は、私にちゃんと約束してくれたというのに……』  勲の名前が出たことに、蘭はドキリとした。 「約束って何? 父さん、勲先生と何か話したわけ?」  問い詰めると、養父は言いにくそうに口ごもった。 『いや、それが……。黙っていたが、実はうちの会社は今、経営が危ないんだよ。それで勲先生に、援助を依頼したんだ。何せ、親戚なんだからな』 「――おい! 勝手に何てことすんだよ!」  蘭は、愕然とした。 『勝手じゃないぞ? 最初は、お前経由で頼もうと思ったさ。でもお前、取り次ぐのを嫌がっていたじゃないか。だから、直に頼んだんだよ』  ――それで、白柳家との間を取り持ってくれって言ってたのか……。  野心家の養父のことだ、てっきり、人脈を当てにしているか何かかと思っていた。そんな事態になっているのなら、もっと話をちゃんと聞くべきだった。悔やまれるが、後の祭りだ。養父は、そんな蘭の思いも知らず、のんきに話し続けている。 『でも勲先生、快く応じてくださったぞ? 三日ほど前に頼んだんだが、今朝電話をくださってな。可愛い嫁のご実家のことだ、是非力になりたい、と仰っていた。今回の陽介先生の件についても、謝っておられたよ。息子のことではご迷惑をおかけして申し訳ない、命じたので、と』  まさか、と蘭は思った。 『今確認したら、金は振り込まれていたよ』

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