164 / 257

『あんな地位にあるのに、驕らない、いい方だなあ』  何も知らない養父は、無邪気に喜んでいる。 『それに比べて、こう言っちゃなんだが、陽介先生はねえ……。浮気して、しかもその場面を撮られて、いい年して父親に心配をかけて……。やっぱり二世議員のお坊ちゃまは、ダメなのかねえ……』 「陽介は、浮気なんかする奴じゃない!」   蘭は怒鳴った。 「あれは罠だ。父さんは白柳家のこと、何もわかってない……。今後白柳勲とは、金輪際関わらないでくれ。……それから、会社の方、大変だとは思うけど頑張って。俺にできることがあれば、力になるから」  事情を知らない養父を責めるのは、お門違いだ。蘭は、取りあえずそれだけを告げて、電話を切った。  それから一時間ほどして、陽介は帰宅した。 「会見のこと、すまなかった」  一歩玄関に足を踏み入れるなり、陽介は謝罪した。 「実は……」 「知ってる」  蘭は、彼の言葉をさえぎった。 「俺の実家のためだろ? さっき、父さんから聞いた」  ああ、と陽介はうなずいた。 「会見前、父から電話があった。俺のもくろみは、全てお見通しだった。事務所の発表を肯定すれば、君のお父さんに融資をすると言った。俺が工面できる金額なら、もちろんそんな取引に応じるつもりはなかった。だが、悔しいことに、俺がどうにかできる額じゃなかったんだ」  陽介が告げた金額に、蘭は言葉を失った。それは、想像より二桁も多かった。 「『M&Rシステムズ』の経営状況は、相当悪かったようだ」  陽介は、深刻な表情で告げた。 「……おまけに、逆らえば融資どころか、『M&Rシステムズ』はひねりつぶすと言った。父なら、お手の物だ。……俺は、従うしかなかった」

ともだちにシェアしよう!