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『あんな地位にあるのに、驕らない、いい方だなあ』
何も知らない養父は、無邪気に喜んでいる。
『それに比べて、こう言っちゃなんだが、陽介先生はねえ……。浮気して、しかもその場面を撮られて、いい年して父親に心配をかけて……。やっぱり二世議員のお坊ちゃまは、ダメなのかねえ……』
「陽介は、浮気なんかする奴じゃない!」
蘭は怒鳴った。
「あれは罠だ。父さんは白柳家のこと、何もわかってない……。今後白柳勲とは、金輪際関わらないでくれ。……それから、会社の方、大変だとは思うけど頑張って。俺にできることがあれば、力になるから」
事情を知らない養父を責めるのは、お門違いだ。蘭は、取りあえずそれだけを告げて、電話を切った。
それから一時間ほどして、陽介は帰宅した。
「会見のこと、すまなかった」
一歩玄関に足を踏み入れるなり、陽介は謝罪した。
「実は……」
「知ってる」
蘭は、彼の言葉をさえぎった。
「俺の実家のためだろ? さっき、父さんから聞いた」
ああ、と陽介はうなずいた。
「会見前、父から電話があった。俺のもくろみは、全てお見通しだった。事務所の発表を肯定すれば、君のお父さんに融資をすると言った。俺が工面できる金額なら、もちろんそんな取引に応じるつもりはなかった。だが、悔しいことに、俺がどうにかできる額じゃなかったんだ」
陽介が告げた金額に、蘭は言葉を失った。それは、想像より二桁も多かった。
「『M&Rシステムズ』の経営状況は、相当悪かったようだ」
陽介は、深刻な表情で告げた。
「……おまけに、逆らえば融資どころか、『M&Rシステムズ』はひねりつぶすと言った。父なら、お手の物だ。……俺は、従うしかなかった」
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