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 すまない、と陽介は絞り出すように言った。 「会見直前で、君に連絡することができなかった。あれを聞いて、君がどれほど傷ついたかと思うと……。それに俺自身、あんな台詞を言いたくなかった。口にするのも汚らわしい……」 「いいんだよ」  蘭は言った。陽介が苦しみぬいたのは、会見時の青ざめた表情から、明らかだった。 「悪いのは、俺だ。父さんからは、白柳家との間を取り持ってくれと言われていたのに、無視してきたから……。むしろ、お前には感謝してもしきれない。うちの親を救ってくれて……」  養父は、真面目で会社思いの人間だ。『M&Rシステムズ』は小規模な会社だが、それだけに家族的だった。きっと、従業員の給料を払えるかが、ひたすら気がかりだったに違いない。金は振り込まれていた、と言った時の養父は、心から安堵した様子だった。 「当然だろう」  陽介が、きっぱりと言い放つ。はっと見上げると、彼は微笑んでいた。 「蘭の親御さんのことなんだから。それに君、昨日言っていたじゃないか。俺にとっての親は、市川の両親だって。君は、産みの母親の沢木さんよりも、彼らを選んだんだ。だから俺は、何としても救わなければと思った」 「陽介……」  じわりと、目頭が熱くなる。陽介は、蘭を抱き寄せると、優しく髪を撫でた。 「それに、君に借りを返さないといけなかったからな」 「借りって?」  蘭は、きょとんとした。陽介は、こともなげに答えた。 「最初に君のご両親に挨拶に行った時のことだ。君がホテルで録音した内容を、俺は消させた。その時君は、一つ貸しだ、と言っていたじゃないか。ようやく、借りを返せる時がきた」

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