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”
それから二週間後。蘭は、都内の某ホテルのスウィートルームにいた。ただし室内ではなく、クローゼットの中である。
あれから陽介は、今まで同様淡々と、立候補の準備を進めた。直前に秘書を交代するのは支障があるということで、古城のこともこれまでどおり使い続けた。そして今日、ついに公示の日を迎えたのである。ちなみに沢木薫子も、小選挙区から立候補している。
――そろそろだな。
蘭は、腕時計を見やった。すると、カチャリとドアの開く音がした。予定時刻ぴったりだ。間を置かずして、大げさな歓声が聞こえてくる。
「すごーい! こんな素敵なお部屋、初めてです!」
確かに、悠の声だ。蘭は、息を詰めて様子をうかがった。
「でも、いいんですか? いよいよ今日から選挙期間だっていうのに……」
「俺は余裕だから、いいんだよ。それよりも悠、君に会いたかった」
陽介が、優しく答える。
「余裕だなんて……、さすが陽介先生です」
悠は、媚びるように言った。
「先生から急に呼び出された時は、びっくりしましたけど。大阪でのこと、怒ってらっしゃるのかなって思ってたから。でも、こうしてまた会っていただけて、嬉しいです……」
「あの時は、突然のことで、混乱していたからね。つい怒鳴ってしまったが、実は後悔していたんだ。ひどいことを言って、悪かった」
悠が、安堵したようにため息をつくのが聞こえる。
「……じゃあ、今夜は一緒にいてくださるんですね?」
「もちろん。正直、あの時見た君の裸身が、忘れられなくてね。今日までは立候補の準備に追われていて、連絡もできなかったが、ずっと抱きたかった……」
陽介が、艶めかしく囁く。芝居だとわかっていても、蘭の胸はチクリと痛んだ。
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