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 しばし、酒を酌み交わす気配が伝わってくる。数分後、陽介が、あ、と声を上げた。 「すまない、仕事の電話だ。外で話してくるから、君は飲んで待っていて」 「わかりました。ゆっくりお話ししてくださいね!」  陽介が、せわしなく部屋を出ていく。蘭は、チラと腕時計を確認した。二十一時。予定通りだ。  ――が、来なければいいのに……。  この期に及んで、蘭は思った。だが期待も空しく、ドアをノックする音がした。 「陽介せんせぇ……? 鍵、持って行かなかったのォ……?」  悠が、ドアの方へ向かう気配がする。もう誘発剤の効果が出ているのだろうか、ろれつがあまり回っていない。開けたとたん、悠は、あ、と声を上げた。 「勲先生!?」 「相談とは何だ?」  不機嫌そうなその声は、確かに勲のものだった。蘭は、手に汗を握りながら、様子をうかがた。 「全く、この忙しい時に……」  ぶつぶつつぶやいていた勲だったが、ふと言葉を止めた。 「お前、ヒート……? ああ、そういうことか。もったいつけおって……」  勲が、低く笑う。そのとたん、ドタバタと物音が聞こえた。蘭は、そっとクローゼットのドアを開けると、隙間からのぞいてみた。  ――勲が思いとどまってくれたら……。  だが、蘭の微かな期待も空しく、勲はすでに、悠をベッドの上に組み敷いていた。完全にヒート状態となった悠は、抵抗もせずに横たわっている。  ――悠、ごめん。  蘭は、覚悟を決めて、カメラをスタンバイさせた。震える手で、録画をスタートする。今自分がすべきことは、陽介が立てた計画の遂行だ。ヒート状態の悠を勲に襲わせ、その光景を撮影し、ネットに流すという……。

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