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 蘭は、どう返していいかわからなくなった。すると、陽介が口を挟んだ。 「それを、どうして俺たちに?」 「ずいぶん迷ったんだ。でも、まともに記事にしたところで、与党べったりのうちの社が、掲載してくれるとは思わない。市川の時みたいになるのがオチだ。せっかく伊代さんが提供してくれたものを、最大限有意義に活用したい。お前たちなら、それを実現してくれると思ってな」  蘭と陽介は、中をのぞいてみた。ノート数冊と、ICレコーダーらしきものが入っている。 「いつどこで誰とどれだけの金額を授受、という記録がつづられている。その時使った車や運転手の情報まで、克明に載っているぞ。レコーダーは、勲に捨てられることを予感した伊代さんが、これまでの復讐のつもりで録音したものだ。献金の、決定的な証拠が入っている」  稲本が説明する。蘭は、封筒を握る手が震えるのを感じた。  ――ついに、白柳勲を追い詰められる……! 「ありがとう。稲本、感謝するよ」  陽介は、しみじみと礼を述べた。 「お前には改めて礼をする。本当に助かった」 「気にするな。というか、実際に頑張ったのは、伊代さんだ」  稲本はけろりと言った。 「ま、どうしても礼をしてくれると言うんなら、市川と二人で茶でも……」 「却下」  陽介は間髪を容れず、真顔で答えたのだった。

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