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16 反撃の時

 陽介がネットにアップした動画の反響は、すさまじかった。悠を非難する意見もあれば、勲を批判するものもあった。 『ひでえ淫乱嫁。白柳陽介が、かわいそう』 『白柳勲も、いくらフェロモンに当てられたからって、息子の嫁と寝るか?』 『いや、アルファなら、オメガのフェロモンには逆らえないだろ』 『でも発情(ラット)状態にしちゃ、白柳勲は冷静じゃね? 合意の上の浮気って感じ』  選挙のまっただ中である。与党幹事長のスキャンダルだ、と野党候補らは、こぞってこのネタを取り上げた。白柳勲は、動画を消そうと躍起になったようだったが、ネット上ではあっという間に拡散されていった。そして陽介は、この件に関して沈黙を貫いた。  そんな中、ネット住民たちは、次第にエスカレートしていった。彼らは悠の経歴を突き止め、居酒屋勤務時代も客と寝ていた、と勝手な噂を流した。中でも蘭が驚いたのは、最初にSNSに上がった写真を分析する者が現れたことだった。 『あの写真を拡大すると、白柳陽介は結婚指輪をしているが、嫁はしていない。嫁に、旦那への愛情がない証拠だ』  陽介は、この騒動を静観し続けた。ついに痺れを切らした蘭は、彼に詰め寄った。 「このまま放っておくのかよ? 悠の奴、個人情報までさらされてんだぞ。かわいそうだろうが!」 「これも作戦のうちだ」  陽介は、クールに答えた。 「全て、俺の筋書きどおりに進んでいる……。黙って見ていろ。行動を起こす必要はなかったと、わかるさ」  そんなある夜、悠が二人のマンションを訪れた。

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