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「さっき証言した他の愛人たちには、ホテルの部屋を確保してやった。でも相沢は、一番危険な立場にあるからな。取りあえずは、このマンションにいるのが無難だろう。いずれ、ちゃんとした住まいを確保してやる」 「わかりました」  悠は、神妙な顔でうなずいた。陽介は、蘭の方へ向き直った。 「というわけで、悪いが少しの間、相沢を置いてやってくれ。……ああそれから、もう一つ伝えておくことがある」  陽介は、蘭を自室に連れていくと、机の引き出しから封筒を取り出した。 「それって……」 「うん。伊代さんが提供してくれた、父の献金の証拠だ。この後、別の週刊誌に情報提供する」  陽介は、伊代がしたためたノートを見せた。蘭は、不安になった。 「それはいいけど……、伊代さんが、危険にさらされないかな? 稲本も留守がちな仕事だし、彼女、家に一人だろう?」 「その点は、大丈夫だ。彼女のために、女性ボディガードを雇った」 「なら安心かな」  蘭は、ほっと胸を撫で下ろした。 「ちなみに、裁判沙汰にしないのは、父を庇ってじゃない。今の検察は、政治家の献金事件の摘発に及び腰だからな。告発したところで、逮捕・起訴される可能性は低い。俺も弁護士をやっていたから、その辺の事情はよく知っている……。だから、メディアを利用する方がいいと判断した」  言いながら陽介は、ノートを丁重に鞄にしまっている。蘭は、眉をひそめた。 「わかった、気をつけてな……。ところで、提供するのはノートだけか? 俺がゲットした、沢木の録音は?」 「ああ、あれね。本当に、使うのか?」  陽介は、渋っている。蘭は、語気を荒らげた。 「何度も言ってるだろ」 「そこまで言うなら……」  陽介は不承不承といった様子で、蘭の盗聴器も鞄に収めた。 「いよいよ、投開票日が迫ってきた。俺は忙しくなるが、君も身の安全には注意しろよ? ここまで堂々と雑誌に載れば、さすがに父も、君に手出しはしないと思うけれどな。今君に何かあれば、自分が真っ先に疑われるから……。とはいえ、用心に越したことはない」  陽介は、蘭を愛おしげに抱きしめたのだった。

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