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翌朝蘭は、一人寝室で目を覚ました。陽介は昨日、週刊誌の件を片付けた後、地方へ出かけたのだ。そのまま泊まり、今朝は早くから、他の候補者の応援に回る予定である。
横に置いてあるベビーベッドをのぞくと、海はすでに起きていて、こちらをじっと見つめていた。
「海、おはよう」
蘭は、明るく声をかけた。
「昨日はお前も大変だったよなあ。でも、いい写真撮ってもらえたぞ~」
おむつを替え、冷蔵庫に作り置きしていたミルクをやると、蘭はキッチンへと向かった。すると、もう悠がいるではないか。見ればダイニングテーブルには、二人分の食事が並んでいる。
「言っとくけど、毒なんか入ってないからね」
悠は、蘭を見るなり言った。
「陽介先生に、釘刺されてるから。ここにいる間、蘭と赤ん坊には手を出すなって。『何かしようものなら、首根っこつかまえて父の前に突き出すぞ』って脅されたよ」
悠が、陽介の表情と口調を真似てみせる。それはそっくりで、蘭は思わず吹き出した。
「じゃあ、いただこうかな。でも、気を遣わなくていいのに?」
「一応泊めてもらってんだから、恩は返したいし。それに、蘭の作るものなんて、どうせ食べられたものじゃないでしょ? 佐藤さんの手伝いをしようとして、危うく火事になりかけたことがあったじゃん」
佐藤というのは、二人がいた施設の調理師である。
「いつの話してんだよ。俺だって、ちょっとは上達したの!」
「どうだかね-」
悠が、肩をすくめる。蘭は、ふっと笑った。
「何がおかしいの」
「いや、毒を吐く悠って、新鮮だなって。でも、俺はそんな悠の方が好きだな。ひょっとして、今まで我慢してた? いろんなこと……」
ストレートに物を言う蘭とは対照的に、悠は昔から控えめで謙虚だった。でもそれは、偽りの姿だったのだろうか……。
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