186 / 257

「そりゃ、そうしないとやってこれなかったから」    悠は、下を向いた。 「蘭ならわかるだろ。血のつながった人間、無条件に自分を愛してくれる人間が、周囲にいないんだから……。だから、施設にいた頃は職員に、引き取られてからは養父母に、気を遣ってばかりで……」    しんみりした空気が流れる。食べよう、と蘭は悠をうながした。二人向かい合って食事を取っていると、蘭は子供時代に帰ったような錯覚をした。  ――いつも、一緒だったっけ。食事も、風呂も、寝るのも……。  ふと、尋ねてみたくなった。陽介とは、本当に寝たのか。今の悠なら、正直に話してくれそうな気がした。  ――いや、止そう。  蘭は、思い直した。陽介に、宣言したではないか。意識がなかった間のことなんて無効だ、と。こだわらないと決めたのだから、それで通さないと……。 「何か、変だよねえ」  唐突に、悠がくすりと笑う。 「本物の妻と偽者の妻が同居して、夫は不在、みたいな。どんなコメディだよって」 「まあ、確かにな」 「陽介先生がいたら、それはそれで面白いけど。いっそ3Pでもしちゃう?」 「お前なあ!」  にらみつけると、悠は口をすぼめた。 「冗談だって」  何だか、気が抜けてしまう。いまいち本気で怒る気もしないまま、蘭は食事を続けたのだった。

ともだちにシェアしよう!