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 蘭は、ドキリとした。 「いいよ、今さら……」 「ううん!」  悠は、激しくかぶりを振った。 「これは言っておかなきゃと思って……。実はあの晩、陽介先生とは、何もなかったんだ」 「――え?」  蘭は、一瞬耳を疑った。本当だろうか。陽介自身、何もなかったと言う自信がない、と言っていたのに。すると悠は、微苦笑を浮かべた。 「悔しいから、今まで言えなかったんだけどさ。これは真実。陽介先生が寝てる間にどうにか既成事実を作ろうと、僕も必死になったんだけど……。ぶっちゃけ、彼、勃たなかった」  蘭は、ぽかんと口を開けた。 「信じられなかったよ、もう……。裸にして、あっちこっち弄りまくっても、彼、全く反応しないんだもん。しかもあの時、僕、ヒートだったんだよ? 不能なの? って思ったよ」  にわかには信じがたかった。オメガは番以外にはフェロモンを出さないが、アルファは番以外ともセックス可能だ。だからこそ、番を何人も作るアルファが出てくるくらいだというのに。それも、ヒート中のオメガのフェロモンに屈しないなど、通常はあり得ない話である。 「きっと、それだけ二人の絆が強いんだよ。蘭以外のオメガは、たとえ無意識でも拒絶しちゃうんじゃない?」  悠は、にっこり笑った。 「しょうがないから、偽装工作して、寝たように見せかけた。失敗した時用に、フェイクの噛み痕をあらかじめメイクで作ってたから、陽介先生にそれを見せたりね。まっ、すぐ見抜かれたけどさ」 「何で、今それを……」 「だって、蘭は命の危険も顧みず、僕を助けてくれたでしょ? 嘘をつき続けるのが、心苦しくなってさ……」

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