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17 傾国のオメガ

 来る、衆議院議員総選挙投票日。蘭は一人、車を運転して、陽介の事務所へ向かっていた。投票の締切は、午後八時、あと一時間後だ。その後は、すぐに開票が始まる。蘭は事務所で陽介と共に、結果を見守るつもりだった。 『俺、何も選挙の手伝いしてないのに。今日だけ行くなんて、いいのかな』  蘭は尻込みしたが、陽介は来てくれと言い張った。 『是非、蘭に一緒にいてほしいんだ。それに、考えていることもあるし……』  運転しながら、蘭は陰鬱な気持ちだった。事前の情勢調査や出口調査の結果を見る限り、与党の旗色はすこぶる悪いのだ。おまけに幸か不幸か、今日の投票率は、未だかつてないほど高い。投票率が高いほど野党に有利になる、というのは、マスコミ業界の常識である。  ――果たして与党は、過半数の議席を維持できるだろうか……。  事務所に着くと、すでにマスコミ関係者が詰めかけていた。彼らは、蘭が車から降りるのを見ると、一様に色めき立った。  ――まずいぞ。  案の定彼らは、駆け寄ってきた。 「白柳陽介氏の、番の方ですよね? ちょっとお話を……」  そこへ、割り込んできた声があった。 「すみませんが、お話なら後ほど」  声の主を見て、蘭は驚いた。古城だったのだ。 古城は、蘭をマスコミから庇うようにして、事務所に通した。二人きりになると、彼は勢いよく頭を下げた。 「蘭さん、申し訳ありませんでした! 番のあなたをないがしろにするような真似をして……。勲先生に、説き伏せられたんです。それに私自身、選挙目前という焦りもあり……」 「いいんですよ」  蘭は、にっこり笑った。 「陽介から、聞きました。古城さん、勲先生に恩があったんですよね? だったら、仕方ないですよ」

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